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熊本地方裁判所八代支部 昭和41年(ヨ)27号 判決

申請人 国本初喜 外五名

被申請人 三楽オーシャン株式会社

補助参加人 三楽オーシャン労働組合

主文

被申請人は申請人らを従業員として取扱い、かつ

い 申請人国本初喜に対し、昭和四一年五月以降、毎月二五日限り金三六、四〇四円を、毎年七月にその月一五日限り金六二、〇〇〇円を、毎年一二月にその月一五日限り金六〇、四〇〇円を、

ろ 申請人坂崎進に対し、昭和四一年五月以降、毎月二五日限り金二六、二〇六円を、毎年七月にその月一五日限り金三九、〇〇〇円を、毎年一二月にその月一五日限り金四一、九〇〇円を、

は 申請人宮田秀義に対し、昭和四一年五月以降、毎月二五日限り金四八、〇〇九円を、毎年七月にその月一五日限り金七六、三〇〇円を、毎年一二月にその月一五日限り金八五、四〇〇円を、

に 申請人鶴山栄蔵に対し、昭和四一年五月以降、毎月二五日限り金四〇、七六五円を、毎年七月にその月一五日限り金六二、五〇〇円を、毎年一二月にその月一五日限り金五九、三〇〇円を、

ほ 申請人田川政徳に対し、昭和四一年五月以降、毎月二五日限り金三二、九五〇円を、毎年七月にその月一五日限り金四七、八〇〇円を、毎年一二月にその月一五日限り金五三、七〇〇円を、

へ 申請人中村巌に対し、昭和四一年五月以降、毎月二五日限り金四一、九一五円を、毎年七月にその月一五日限り金六四、〇〇〇円を、毎年一二月にその月一五日限り金七二、〇〇〇円を

それぞれ仮に支払え。

訴訟費用中、申請人らと被申請人との間に生じた分は被申請人の負担とし、申請人らと補助参加人との間に生じた分は補助参加人の負担とする。

(注、無保証)

事実

第一、申請人らの申立および主張

申請の趣旨

申請人らは主文第一項と同旨および「訴訟費用は被申請人の負担とする。」との判決を求める。

申請の理由

一、被申請人(以下単に会社ともいう)は、アルコール、酒類の製造並びに販売を主たる業務とする株式会社で東京に本社を、大阪市に支店を、川崎市、藤沢市、札幌市、大阪市、八代市、小林市等に各事業場を有しており、申請人らは会社の八代工場に勤務する従業員であり、八代工場および大阪支店の従業員で組織された三楽九州地区労働組合(以下単に旧労ともいう)の組合員である。会社の八代工場には右旧労の外に三楽オーシヤン労働組合(補助参加人)の下部組織として同組合の八代支部(以下単に新労ともいう)が存在するが、新労は昭和三九年五月二八日に結成されたものである。

二、申請人らは、いずれも昭和四一年四月一一日新労から除名処分を受け、会社は申請人国本、同坂崎に対し同月二一日、申請人宮田、同鶴山、同田川、同中村に対し同年五月九日、会社と新労との間に締結されている労働協約第六条第二項(ユニオンシヨツプ協定)により、新労から申請人らを解雇するよう申入れがあつたから就業規則第三〇条第四号に該当するとの理由で、申請人国本、同坂崎を同年四月二二日付で、申請人宮田、同鶴山、同田川、同中村を同年五月一〇日付で各解雇する旨の意思表示をした。

三、しかし、申請人らに対する本件解雇は以下詳述するとおり無効である。

(一)  申請人らに対する新労の除名処分は、以下123に記述するとおり無効であるから本件解雇もまた効力がない。

1 申請人中村は昭和四一年三月三日、同田川は同月四日、同宮田および鶴山は同月七日、同坂崎は同月一四日、同国本は同月一七日それぞれ脱退届を提出して新労を脱退し、いずれも各脱退日と同日に旧労に加入したから新労の除名当時申請人らは旧労の組合員である。除名はその構成員に対してのみ効力が及ぶものであつて既に新労の組合員でない申請人らにその効力の及ぶ理はない。

申請人らは新労所属期間中、斗争積立金を積立てていたが、申請人中村、同宮田、同田川、同鶴山は脱退届提出後、同年三月八日ごろ新労から前記積立金の返還を受けている。このことは新労が斗争積立金規定第四条第三号(組合員資格を喪失せる場合)に該当すると認めたからに外ならず、本件除名当時、申請人らが新労を脱退していたことを新労は承認していたものである。

2 新労の規約第七二条は組合員に対する制裁について規定し、同第七三条によると「制裁に関する手続は査問委員会が定める。何人も査問委員会が定めた手続によらずして制裁を受けることはない。」と定められており、その査問委員の選出は規約上(同第四二条本文および同条二号、同二七条)、組合構成員の直接無記名投票の選挙によることとなつているのに、右査問委員の直接無記名投票は行われなかつた。したがつて査問委員会の成立自体が規約に違反しているから除名は無効である。

また、前記除名は新労の全体投票によつて行われ、右期日は当初昭和四一年四月八日および九日の二日間と予定されたのに、それが法定の決定を得ることもなくまた周知手続もとられず勝手に一日延長されたが、その際投票箱の封紙にも封印がなされていなかつた。したがつて全体投票による右除名手続には手続上の重大な瑕疵があるのでその決定は効力がない。

3 前記規約第七〇条は組合員に対する制裁事由を同第七一条は右制裁の種類を規定するところ新労は申請人らが組合の統制秩序違反の行為をし、それは右第七〇条第二号に該当するとの理由で申請人らを除名処分にしたが申請人らは何ら統制秩序に違反する行為をしたことはないので右除名処分は無効である。

(二)  かりに本件除名が有効であるとしても、次の理由により本件解雇は無効である。

申請人らは、もと旧労組合員であつたが、昭和三九年六月ごろ、旧労を脱退し、新労に加入したところ新労が御用組合であることから再び前記のとおりこれを脱退して旧労に復帰したものである。

そもそも企業内に二つの組合が併存している場合に、どの組合に加入するかは労働者の自由であつて、他の組合に加入するため所属組合を脱退することは当事者の自主的判断に待つべきものである。二組合併存の場合、一方の組合を脱退して他方の組合に加入するとき、ユニオンシヨツプ協定によつて解雇することができるとすれば労働者の組合選択の自由を侵害するものであり、ひいては旧労の団結権を侵害するものである。したがつて申請人らに対しては前記ユニオンシヨツプ協定の効力は及ばず本件解雇は無効である。

(三)  昭和三九年五月二八日、会社の後援によつて新労が結成され、職制の圧力により旧労から多数の組合員が脱退し、ついで同年七月三一日旧労の執行委員平野公夫が解雇されたが、右解雇は当時一五名になつていた旧労に打撃を与え、これを崩壊させるためになされたものである。その後も会社は正当な組合活動をつづけている旧労の掲示板の使用禁止等種々の圧迫を加えた。一方新労は所謂合理化や組合員の転勤等について組合員の要望を無視し、会社に迎合し、団体交渉の内容についても組合員に報告しない等いわゆる御用組合であつて申請人らはその御用化に耐え切れず前記のとおり新労を脱退し旧労に復帰してきたものである。右のような事情からそのまま推移すれば新労から組合員が続々と旧労に復帰する実情にあつたから会社および新労は恐れをなし何とか今後の脱退者を防止するため、ひいては旧労が強化されその組合活動が展開され、従業員を会社の意のままに操じゆうすることができなくなることを焦慮し、本件解雇に及んだものである。

したがつて本件解雇は旧労に対する会社の支配介入であり、または、旧労に加入し正当な組合活動をしている申請人らに対し、労働組合に加入したこと、労働組合の正当な行為をしたことを解雇の真の理由とするもので本件解雇は不当労働行為に該当し無効である。

四、申請人らは昭和四一年四月当時、申請人国本は月額三六、四〇四円、同坂崎は二六、二〇六円、同宮田は四八、〇〇九円、同鶴山は四〇、七六五円、同田川は三二、九五〇円、同中村は四一、九一五円の各賃金を毎月その月の二五日に各支給されていたものであり、なお申請人国本は賞与として七月に六二、〇〇〇円、一二月に六〇、四〇〇円を、同坂崎は七月に三九、〇〇〇円を、一二月に四一、九〇〇円を、同宮田は七月に七六、三〇〇円を、一二月に八五、四〇〇円を、同鶴山は七月に六二、五〇〇円を、一二月に五九、三〇〇円を、同田川は七月に四七、八〇〇円を、一二月に五三、七〇〇円を、同中村は七月に六四、〇〇〇円を、一二月に七二、〇〇〇円を、それぞれその月の一五日に賞与として各支給をうけた。よつて請求の趣旨記載の各金員の支給を受ける権利がある。

申請人らは現在、会社を相手として従業員たる地位の確認を求める本案訴訟の提起を準備中であるが本案判決確定に至るまで解雇者とし処遇されることは生活の唯一の資である賃金の支払を受けることができず、本件解雇以降人夫などをして糊口をしのいでいる申請人らにとつて回復すべからざる損害を蒙るおそれがあるので申請の趣旨記載のとおりの裁判を求める次第である。

第二、被申請人および補助参加人の答弁並びに主張

申請の趣旨に対する答弁

被申請人は、「申請人らの申請をいずれも却下する。訴訟費用は申請人らの負担とする。」との判決を、補助参加人は「申請人らの申請をいずれも却下する。」との判決を各求める。

申請の理由に対する答弁

一、申請の理由一の事実中、申請人らが、現在会社の従業員であることは否認する。旧労の組織構成は不知。その余の事実はすべて認める。

二、申請の理由二の事実はすべて認める。

三、(一) 申請の理由三、(一)1の事実中、申請人らが、その主張のころ、脱退届を提出し、新労を脱退する旨の意思表示をしたことは認める。しかしこのことは脱退の意思表示と同時に当然に脱退の効力を発生することを意味するものではない。

申請人らがその主張のころ旧労に加入し、除名当時旧労の組合員であつたとの事実は不知。

申請人らが新労所属期間、斗争積立金を積立てていたこと、申請人中村、同宮田、同田川、同鶴山に対し、その主張のころ、新労が積立金を返還したことは認める。しかしそれは単なる手違いによるものである。

その余の事実はすべて否認する。なお新労が申請人らの離籍を承認した事実はない。申請人らは脱退届の提出即ち脱退の成立を主張するが、組合が組織体として秩序統一をもつ以上仮に不当な脱退申立がある場合これに対する制裁の機会としての相当の期間が与えられねばならず、組合の承認による場合の外はそうした期間を除名処分を受けることなく経過することによつてはじめて脱退が成立するものと解すべきところ、新労は申請人らの前記脱退届を認めず、却つて申請人らを除名に付する決定をしたのであるから前記申請人らの見解は不当であつてこれを前提とする除名無効の主張も成立しない。

2の事実中、規約第七三条の規定内容、査問委員選出の直接無記名投票を行わなかつたこと、全体投票の期日が申請人ら主張のとおり一日延期されたこと、投票箱の封紙に封印がなかつたことはいずれも認めるが、その余の事実はすべて否認する。

前記査問委員は大会において無記名投票に代え挙手により選出されたがこれは従前からの組合の慣行であり、組合としても最も民主的に構成員の総意を結集しうる大会の決議による手続によつて行われたのであるから右手続を違法とするに足りない。全体投票期日の決定は選挙管理委員会の権限であつて右一日の延期は同委員会において適法に決定され且つ周知手続もとられている。また投票箱に封印がなかつたというがこれは何ら瑕疵とするに足りないものでそれは投票の効力に何ら影響を与えるものではない。

3の主張は否認する。

(二) 申請の理由三、(二)の事実中、申請人らがもと旧労組合員であつたこと、その主張のころ旧労を脱退、新労に加入したことは認めるが、その余の点はすべて否認する。

(三) 申請の理由三、(三)の事実中、新労がその主張のころ結成されたこと、その後多数の組合員が新労に加入し、旧労の組合員は一五名となつたこと、平野公夫が解雇されたことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。

かつての九州地区労働組合が分裂したのは当時その組合の指導者であつた竹田定記ら組合執行部の独裁的な組合運営並びにその指導理念の結果であり、新労の結成並びに運営をもつて、申請人らは御用組合であるといつているが、これは全く申請人らの誤解にすぎない。

四、申請の理由四の事実中、賃金支払時期並びに申請人ら主張の金額が各「基準内賃金」であることは認めるが、その余の事実はすべて否認する。申請人らに対する実際の支給額は諸控除があるため右金額よりも低額である。

被申請人の主張

会社が申請人らを解雇した理由は、会社と補助参加人組合との間に締結されている労働協約第六条第二項(いわゆるユニオンシヨツプ協定)により、新労からの申請人らに対する解雇の要求に対応してそれは会社の就業規則第三〇条第四号に該当するとして会社が協約上負担する解雇義務の履行としてなしたものである。

一、会社が右のユニオンシヨツプ条項により協約上負担する本件解雇義務の発生原因は第一次的に新労からの「除名」である。会社とユニオンシヨツプ条項を締結していた当事者組合は連合会(補助参加人)であるが、本件除名当時、申請人らは、連合会傘下の単位組合である南九州地区組合に所属し新労を介して右協定の適用をうける関係にあつたものである。

而して新労が申請人らを除名した事由および手続が適正かつ有効であつたことは補助参加人が後記主張するとおりである。

そもそも、ユニオンシヨツプ条項は特定の組合(条項の締結当事者組合)への団結強制を本質とするものであるから、当該組合内にある者に対しては、その者が構成員たる資格を失わない限りシヨツプ条項の顕在的適用(解雇)の問題を生じないが、構成員でない者に対しては条項の本質上直ちに適用問題を生じるのであつて、シヨツプ条項の効力、適用上の問題の中心はむしろ対外問題にあるといえる。この対外問題を考えるにあたり、当事者組合の構成員でない者には二種類あり、その一つは新規採用、新規転入を含む未組織労働者、他は当事者組合以外の別組合に加入している組織労働者である。そして前者については当事者組合のシヨツプ条項がそのまま適用されると解するのが一般的であるが、後者に対してはその団結の保護との調整をめぐつて複雑な問題を生じる。

それに引きかえ本件の場合は、当事者組合の構成員であつて、しかもシヨツプ条項締結当時から所属している組合員に対し、その者が除名により当事者組合の組合員資格を喪失したことを理由にシヨツプ条項を適用したものであるから之は明らかに対内問題であり、シヨツプ条項適用の本来的且つ原則的形態であり、その適法、有効性は当然である。

二、かりに本件除名が無効であるとしても、申請人らは自ら主張するごとく、新労に対し、任意脱退によりその組合員資格を喪失したものである。而して申請人らが解雇される根拠となつた協約上の本件ユニオンシヨツプ条項は除名の場合のみに限定されず任意脱退の場合も同様、会社に対し、協約上の解雇義務を法律上発生させるものであるから右ユニオンシヨツプ条項に基づく解雇義務の履行としてなされた本件解雇は結局法律上適法な義務の履行として有効である。

前記協約第六条第二項には「脱退」の場合を記載せず「除名」の場合のみを記しているが、このような規定であつても之がユニオンシヨツプ条項と解される以上、当然のこととして、単に除名による組合員資格喪失の場合に止ることなく進んで脱退による組合員資格喪失の場合にも同様の効果があり、解雇義務を発生するものである。

補助参加人の主張

一、新労が申請人らを除名処分したのは次の事由にもとづく。

(一)  申請人らは昭和三九年五月二八日、新労結成当時またはその直後、かつての連合会、九州地区労働組合から脱退し、新労に加入したにもかかわらず、新労と指導理念を異にし、対立関係にある旧労に、特段の事由なくして相提携し、再び復帰するため新労に脱退届を提出することは、その行動だけでも組合規約に反し除名事由に該当する。

(二)  かりに然らずとするも、申請人らは、新労が機関決定した旧労に対する組合財産分割請求のための委任状集めに対し、自ら委任状を提出しないのみか、他の組合員にその不提出を働きかけて妨害し、旧労の文書を配布したり又は旧労の会合に出席するなどの行為をなし、これら新労組合内における統制違反および団結破壊行為はまさに正当な除名事由となる。

二、本件除名は手続上も正当に行われたものである。

査問委員の選出は新労の組合大会の決議によつて行われたものであるから同委員会の成立に何ら瑕疵はない。かりに査問委員の選出方法に何らかの瑕疵があつたとしても、同委員会が組合大会の総意によつて設置選定されたのであるから同委員会が不存在であるとはいえず除名決定の効力に影響を及ぼすものではない。

また、本件除名投票の際、投票の第一日目に、投票箱の封紙に封印がなかつたことを申請人らは批難するが、これ亦何ら瑕疵とするに足りない。封紙に封印することは選管規定、規約等に規定されていることではなく、慣行上行うことが望ましいというだけであつて、選管が投票箱を見て特にその封の破られた形跡の認められなかつた以上、その保管に不正が行われたことを疑う根拠がないから投票手続を無効とする必要がない。

第三、被申請人および補助参加人の主張に対する申請人らの認否ならびに反論。

一、被申請人および補助参加人の主張に対する認否。

被申請人が解雇義務の発生原因として主張する事実のうち、新労が申請人らを除名処分したこと、申請人らが、当該ユニオンシヨツプ協定の適用をうける関係にあつたこと、申請人らが新労を脱退したこと、協約第六条第二項には「脱退」について記載のないことは認めるが、その余の点はすべて否認する。なお会社の就業規則第三〇条には解雇事由を規定しているが、右の解雇事由は限定されており、会社が申請人らに対し、同条第四号を適用したのは就業規則に違反するものである。

二、権利の濫用の主張

かりに申請人らに対する新労の除名が有効であるとしても、会社と新労との間の労働協約及び同附随覚書に徴し、新労の除名によつて会社は直ちに被除名者を解雇する義務を負うものではない。しかるに会社がいきなり申請人らを解雇したのは解雇権の濫用であつて無効である。

第四、権利の濫用の主張に対する被申請人の認否並びに反駁。

一、申請人ら主張の事実はすべて否認する。

二、被申請人の反駁。

本件ユニオンシヨツプ条項の附随覚書に「解雇に不適当と思つた場合は組合と協議して其の措置を決定する」とあるが、右覚書は、当該被除名者が余人を以つて代え難い人であつて若し之を解雇すると会社業務運営上重大な支障がある場合を意味すると共に、その場合と雖も解雇義務が発生しないものではない。そして申請人らは到底右覚書に該当するものではなかつたから、いずれにせよ本件除名により即時解雇義務が発生しており本件が解雇権濫用であることもない。

第五、疎明関係〈省略〉

理由

一、争いのない事実

被申請人がアルコール、酒類の製造並びに販売を主たる業務とする株式会社で東京に本社を、大阪に支店を、川崎市、藤沢市、札幌市、大阪市、八代市、小林市等に各事業場を有しておること、申請人らがもと会社の八代工場に勤務する従業員であつたが、本件解雇以来、会社がその従業員としての地位を否認していること、会社の八代工場には旧労並びに新労の二組合が併存しており、新労の結成が昭和三九年五月二八日であること、そして申請人らが昭和四一年四月一一日新労から除名処分を受け、ついで会社から新労と会社との間に締結されている労働協約第六条第二項、就業規則第三〇条第四号に基づき、申請人国本、同坂崎を同年四月二二日付で、申請人宮田、同鶴山、同田川、同中村を同年五月一〇日付で各解雇する旨の意思表示をしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二、会社の労働組合組織関係

証人竹内全平の証言によつてその成立を認める疎乙第六号証、第一〇号証、およびその証言と証人早田芳昭、同加藤省三、同竹田定記の各証言を総合すると、会社における労働組合の組織は、当初は会社の各事業場別の労働組合が連合会を構成していたが、昭和三七年七月ごろから、これらを整理統合して東京地区、関東地区、関西地区、九州地区の四地区組織の連合会を結成し、上部団体とし日本労働組合総同盟、全国食品産業労働組合同盟に加盟していたこと、ところが、昭和三九年三月、三楽労働組合連合会の大会において、主として九州地区労働組合を代表する組合幹部のこれまでの組合運営方針並びに活動が、総同盟に加盟している連合会の指導理念並びに組合運営に反するものとして他の三地区から批判されるとともに、連合会内部がこれらの問題について混乱に陥り、遂に右連合会が解体し、その直後、九州地区を除く他の三地区で新連合会を結成し、その後昭和三九年五月一六日会社と新連合会との間に労働協約が締結されるに至つたが、独り九州地区労働組合のみ無協約の状態であつたところ、同年五月二八日、九州地区労働組合の多数の組合員が集団的に脱退して新労を結成し、同年六月一日ごろ、右の新連合会に加盟したことから前記労働協約の適用を受ける関係にあつたこと、右の集団的脱退によつて当時九州地区労働組合(旧労)は組合員約一五名に減少し、新労の組合員は約五二〇名になつたことがそれぞれ認められ、これらの認定を覆えすに足る疎明はない。

なお、申請人ら各本人尋問の結果、その成立を認める疎甲第五五号証、第五七乃至第六一号証、および同第七九乃至第八四号証、証人竹田定記の証言、並びに申請人ら各本人尋問の結果を総合すると、申請人らはいずれも、もと九州地区労働組合に所属していたが、前記新労の結成後まもなくこれに加入し、以来新労に所属していたが、申請人中村は、昭和四一年三月三日、同田川は同月四日、同宮田および鶴山は同月七日、同坂崎は同月一四日、同国本は同月一七日新労に対し脱退届を提出し、同時に旧労に加入したこと、そして脱退届提出の理由が申請人各人多少の差異はあるが主として新労の組合費値上の方法、退職金の年金化の問題、会社の合理化への協力その他の新労幹部の組合運営について(客観的な評価は別としても)主観的に不満を持つたことが認められる。なるほど証人高橋節男、同早田芳昭の各証言中には右の年金化の問題、合理化の問題、その他の組合運営についてそれが労働組合として充分理由のある旨の供述があるが、これらの証言を信用すると否とにかかわらず、右の各証言は前記認定の妨げとはならない。

三、申請人らの脱退および除名処分の効力について

(一)  申請人らは、新労から任意脱退したので、右新労と会社との間に締結された本件ユニオンシヨツプ協定は申請人らに対し効力を有しないと主張し、新労の申請人らに対する除名処分の無効原因の一としても除名処分以前に申請人らは新労を脱退していたことを理由にこれを争うので、まずこの点から判断するに、労働者がその所属する労働組合から脱退することは原則として自由であるというべきであるが、具体的な場合に脱退が何時成立するかは判定の困難な問題である。思うに、労働組合からの脱退といい、除名というも、ともに組合員たる資格を喪失する点においては同じであるが、除名の場合は組合の制裁の一として組合構成員たる資格を一方的に奪い、爾後加入資格を有しないことになる意味では脱退とは大なる差異があるのであるから、脱退しようとする当該組合員が組合内で除名処分に該当すべき行為をした場合とか、その脱退が組合にとつて明らかに不利な時期で労働組合の団体行動を阻害するような場合にもなお脱退の意思表示によつて直ちに組合員資格を失うとすると当該組合員に対して制裁を加えることが不可能となるので妥当ではない。したがつて右のような特殊な場合には組合はその脱退を拒否し、組合の規約に従つてこれに対し、制裁を加えることは許されるものといわなければならない。しかし、このような特殊な場合を除いては、組合の規約に脱退に関する定めがあれば、その手続が脱退の自由に対する実質的な障害を為すものでない限り、これに拘束されると解すべきであるからその手続の完了した時に脱退の効力を発生するものと解するのが相当である。また組合の規約に脱退に関する何らの定めがなければ当該組合員の脱退の意思表示によつて組合員たる資格を喪失すると解するのが相当である。このように考えると申請人らの新労からの脱退の時期は、結局申請人らの脱退が前記のような特殊な場合の脱退であるか否かによつて左右されることとなるところ、後記認定のとおり申請人らが脱退届を提出した頃申請人らは新労組合内で除名処分に該当すべき行為をしたことなく、また、その脱退の時期がとくに使用者に対する関係において組合の団体行動を阻害されるような例えば争議中であるとかの組合にとつて明らかに不利な時期であるという事情を認めうる疎明もなく、新労は申請人らが新労所属期間中に積立てた斗争積立金を申請人らの前記脱退届提出後の昭和四一年三月八日頃申請人中村、同宮田、同田川、同鶴山に対し右積立金を返済したことは当事者間に争いがないので、以上の事実と斗争積立金返済を規定した疎甲第三〇号(斗争積立金規程)などを総合して判断すると、少くとも新労が申請人らを除名処分した時期には申請人らは新労を脱退し、新労の組合員資格を喪失したものということができる。

証人高橋節男の証言によつてその成立を認める丙第五号証の一、二、四の記載並びに証人高橋節男、同江副正利の各証言中、右に反する部分があるもそれらは右認定の妨げとはならない。

(二)  そこで進んで申請人らの除名事由および同人らの任意脱退を妨げる特段の事由の存否についてみるに、被申請人並びに補助参加人は、申請人らは昭和三九年五月二八日新労結成当時、かつての九州地区労働組合から脱退して新労に加入したにもかかわらず、新労と指導理念を異にし、対立関係にある旧労に再び復帰するため相提携して新労に脱退届を提出することはその行動だけで除名事由に該当する旨主張する。なるほど証人早田芳昭、同高橋節男、同加藤省三、同倉形武雄、同竹田定記の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、旧労と新労との間には組合運営の指導理念並びに活動に相異が見られ、旧労と新労が、とりわけその幹部のあいだで相対立し、また組合財産の帰属等についても反目している関係にあることは疑いないが、このように企業内に指導理念を異にする二組合が併存している場合に、一方の組合に所属している労働者が他方の組合に加入するため所属組合を脱退することは、後記のようにユニオンシヨツプ条項の効力が当該労働者に及ぶか否かの問題はあるが、これはしばらく措くとして、労働者に組合を選択する権利があり、しかもこれが積極的団結権の一要素と解される以上、当然許されるものといわなければならない。労働組合は、がんらい使用者に対する関係において、労働者の経済的地位の向上を目指して労働運動を展開するための団体であつてその結合の根本目的からみて構成員に留めておくことのできないものを除名するのであるから除名が一般に慎重に行われるべきことは当然であるし、本件のように互いに指導理念を異にする組合が併存している場合においてもその組合が自主性を有する労働組合である限り、これに加入するため所属組合を脱退することその行為自体をとらえて除名事由に該当するとはいえない。

したがつて、この点に関する被申請人並びに補助参加人の主張は、それ自体失当といわざるをえない。

次に具体的な統制違反行為の存否についてみるに、証人高橋節男の証言によつてその成立を認める丙第一二号証の二および同人の各証言並びに証人江副正利の証言には申請人らの各脱退勧誘、委任状提出妨害、旧労会合出席、旧労文書配布の各行為をなしたとの記載並びに証言があるが、これらのうち、申請人らが他の新労組合員に対し、その脱退を勧誘したこと、他の組合員に対して旧労に対する組合財産返還のための訴訟委任状の提出を妨害したとの各証言並びに記載は申請人ら各本人尋問の結果に照らし、たやすくこれを信用することができない。

なるほど、証人竹田定記の証言および申請人ら各本人尋問の結果によると、申請人らはいずれも、右の組合財産返還のための訴訟委任状提出についての旧労の説明会に出席したこと、そしていずれも右の委任状を新労に提出しなかつたこと、旧労の文書を配布したことをそれぞれ認めることができ、右認定に反する疎明はない。

しかし、右の組合財産というのが何を意味するのか必ずしも明瞭ではないが、かりに新労の組合員がかつての九州地区労働組合に所属していた期間中、同組合に預けた斗争積立金等を意味するのであれば、右の斗争積立金は各組合員の個人的な権利と見るべきものと考えられるので申請人らがこの返還のための訴訟委任状を新労に提出しなかつたからといつて除名事由に該当するほどの行為であるとは到底考えられない。

証人高橋節男の証言によつて認められるように、右の訴訟委任状の提出が、新労の執行委員会の方針であり、新労の大会において多数決によつて決議されたこと、したがつて、訴訟委任状の不提出が新労の機関決定に反することになつても前記の判断に影響を及ぼすものではない。

そして、申請人ら各本人尋問の結果を総合すると、申請人らが前記の旧労の説明会に出席したのは、申請人ら各人が直接利害関係を有する財産について、新労の幹部の説明のみでは充分納得できなかつたことから旧労の側の説明をも直接聞いて、その態度を決定しようとしたことを窺えるのであつて、単に右の説明会に出席したことをとらえて新労の統制を著しくみだしたものと速断することは困難である。また、申請人らが旧労の文書を配布したのは、いずれも申請人らが新労に対して脱退届を提出し、しかも旧労に加入した後の行為であるし、加えるに申請人中村、同田川、同宮田、同鶴山は、同人らの各本人尋問の結果により、その成立が認められる疎甲第三一乃至第三四号証及び証人竹田定記並びに右各本人尋問の結果認められるように、脱退届提出後の昭和四一年三月一〇日ごろまでに新労の支部長高橋節男外数名の新労の組合役員の了解の下に、新労所属期間中、新労に積立てていた斗争積立金の返済を受けたのであるから右の申請人らが新労を脱退したものと考えるのは弁論の全趣旨によつてその成立を認める疎甲第三〇号証の斗争積立金規程の第四条第三号に徴し当然であると解される。したがつて申請人らの新労脱退の効力が何時発生したのであるかは別論としても、申請人らが右のような事情の下に旧労の文書を配布することは、それ自体は新労の統制に反する行為であるとはいえ、脱退届の提出と旧労の文書配布の時期からみてこれら文書配布行為を新労が除名その他の制裁を課す対象たる行為とはなし得ないものであると解するのが相当である。

以上認定のとおり、申請人らはいずれも新労の組合内にあつて、除名処分に該当するほどの行為をしたものとはいえないから新労のなした申請人らに対する除名処分は無効であるといわざるをえず、また、申請人らの任意脱退の効力を妨げる理由として申請人らの新労からの脱退が新労の団体的統制秩序や団体行動を阻害し、右組合の集団的利益を不当に侵害するものと認めうるに足る疎明もないので、その点についての会社および補助参加人の主張は理由がない。

以上の次第であるから申請人らは新労の除名処分当時、すでに新労から脱退し、旧労に加入していたものであつてこの意味からしても新労の除名処分は無効であるというべきであるから、さらに申請人ら主張の除名手続に関する瑕疵の点を判断するまでもない。

四、本件ユニオンシヨツプ協定の効力について

前叙説示のとおり申請人らに対する新労の除名は無効であるからこれを前提とする本件解雇も当然その効力を有しないものと解されるが、会社は申請人らが任意脱退したものであるとしても本件ユニオンシヨツプ条項の適用を受けて解雇義務が発生すると主張するので判断するに会社と労働協約を締結していた当事者組合は連合会であるが、申請人らは新労を脱退するまで連合会傘下の単位組合である新労に所属し、右協定の適用を受ける関係にあつたことは当事者間に争いがない。

そして、右の労働協約第六条には、証人加藤義一の証言によつてその成立を認める疎乙第一〇号証によると「組合員は会社の従業員としての身分を持つものでなければならない、」「正当な理由により組合が除名した者は会社は之を解雇する。」同号証の協約解釈運営に関する覚書(1)の第六条関係には「組合除名者の取扱いは次のとおりとする」「会社は組合が除名したものは原則として解雇するが其の理由が解雇に不適当と思つた場合は組合と協議して其の措置を決定する」と各規定されている。

このように脱退について規定を欠く場合においても、これがユニオンシヨツプ協定と解される以上、特に除外規定でも設けられていない限り、一般的には脱退の場合にも会社にその脱退者を解雇する義務があることは協約の解釈として当然であると解される。そして、かりに一事業場に一つの労働組合のみ存在する通常の形態においては、これが会社とユニオンシヨツプ協定を締結している場合、組合から脱退した者に対し、ユニオンシヨツプ協定の効力が及ぶと解してもさして不都合な結果を招来しないであろう。けだし、この場合、当該組合員が侵害されるのは、この者が組合に入らないでいる自由(消極的団結権)であつて憲法の保障する団結権(積極的団結権)に含まれないと解されるからに外ならない。

しかし本件のように、一事業場に複数の労働組合が併存している状況の下では、右のような原則は修正されるべきではなかろうか。もつとも二組合併存の場合、ユニオンシヨツプ協定を締結している組合から脱退し、他組合にも加入せず、未組織労働者として留まる場合、これにユニオンシヨツプ協定の効力が及ぶと解しても前記のとおり差しつかえないであろう。

しかし、かりに新規採用者について考えると、右の原則からすれば、その者は解雇を免れるために必然的にユニオンシヨツプ協定を締結している一方の組合に加入せざるを得なくなる。

かくてはその者から見た場合、組合に加入する権利はユニオンシヨツプ締結組合に対してのみ保障され、それ以外の組合を選択しこれに加入する権利は全く保障されない結果となり、他方労働組合の側からすればユニオンシヨツプ協定の威力によつて、その締結組合の団結権保障の名の下に他方の組合の団結権は圧迫される結果を招来し、甚だ不合理である。

そこで申請人らに対して本件ユニオンシヨツプ協定の効力が及ぶか否かについてみるに、申請人らは前記認定のとおり新労の組合運営を不満とし、新労から脱退し、同時に旧労に加入したものである。本件ユニオンシヨツプ協定の効力が及ぶとすると、申請人らが所属組合を離れ、他の組合を選択し、これに加入しようとする権利を否定されることになる。

そうだとすれば、前記新規採用者について考えたように当該組合員の組合選択乃至加入の権利は害され、ひいては旧労の団結権をも圧迫する結果となる。労働組合は、がんらいユニオンシヨツプ協定を締結していると否とにかかわらず、労働者の経済的地位向上のため組織の拡充強化を企図することは、いわば労働組合の本質的要求であり、かかる要求も尊重されなければならない。それは単にユニオンシヨツプ協定を締結している組合のみに与えられたものではなく、併存する他の組合も平等に附与されたものである。

そこで申請人らの前記行為は権利行使としての積極的団結権の一側面というべきであつて、これを否定することは結局、一事業場に併存する組合間の組織斗争に中立であるべき使用者がユニオンシヨツプ協定を通して偏頗な態度をとることを是認することとなり、ひいてはユニオンシヨツプ制の存在する本来の意味を離れ、その逆用を助長する結果を招くの弊を生み出す。

このようにみてくると、本件ユニオンシヨツプ協定は、新労から脱退し、旧労に加入した申請人らに対してはその効力が及ばないと解するを相当とする。

五、仮処分の必要性

本件各解雇通告当時の賃金月額は、申請人国本は金三六、四〇四円、同坂崎は金二六、二〇六円、同宮田は金四八、〇〇九円、同鶴山は金四〇、七六五円、同田川は金三二、九五〇円、同中村は金四一、九一五円であること、その賃金の支払日が毎月二五日であること、昭和四〇年当時賞与として、申請人国本は七月に金六二、〇〇〇円を一二月に金六〇、四〇〇円を、同坂崎は七月に金三九、〇〇〇円を一二月に金四一、九〇〇円を、同宮田は七月に金七六、三〇〇円を、一二月に金八五、四〇〇円を、同鶴山は七月に金六二、五〇〇円を、一二月に金五九、三〇〇円を、同田川は七月に金四七、八〇〇円を、一二月に金五三、七〇〇円を、同中村は七月に金六四、〇〇〇円を、一二月に金七二、〇〇〇円を各支給されたことは当事者間に争いがなく、(もつとも右金額は会社主張のとおり基準内賃金であるが、申請人らの賃金としては前記金額をもつて相当と思料する)成立に争いのない疎甲第六三号証、同第六四乃至第六九号証および申請人ら各本人尋問並びに弁論の全趣旨によれば、申請人らが従来会社から支給される給与のみをもつて生計を維持する者であり、また解雇された者として処遇されることによつて社会的にも精神的にも回復し難い損害を蒙りつつあること、本件各解雇通告後は、いずれも臨時的な仕事に従事して現在に至つていることが認められ右認定を覆えすに足りる疎明はない。

六、結論

以上説示のとおり本件ユニオンシヨツプ協定の効力は新労を脱退した申請人らに対しては及ばないから会社にそれを根拠とする解雇義務の発生する余地はない。従つて本件ユニオンシヨツプ協定による解雇義務を理由として就業規則に基づき、申請人らに対してなした本件各解雇は理由なきに帰する。

してみれば、本件各解雇の無効を理由として会社との間の雇傭契約上の地位の保全並びに金員の請求を求める本件仮処分申請は、その余の申請人ら主張事実につき判断するまでもなく、その理由及び必要があるというべきであるから保証を立てさせないでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平岡三春 松尾俊一 中根与志博)

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